”番組の真実”といっても、悪い意味での暴露では無く、伝え切れなかった補足とお考え
くださいね。
まず最初にお伝えしておきたいのですが、加藤会長は時計を預かって最終段階まで
組み立てるオーバーホール作業は原則行っておらず、専ら部品の特殊加工や新規作成を
行っております。
番組の意向として、”会長の作業によって時計が息を吹き返した”ということに
したかったのがわかりましたので、普段は行わない最終組み立てまで行ってもらい
ましたが、預かった段階で停止の原因を究明し、最終的にオーバーホールして調整
したのは私なんですよ。
当初、文字盤裏ではテンプが振るものの、文字盤上にすると停止してしまうために、
テンプ受け側の天芯が折れているのかと思いましたが、2番車の中心軸がくびれるまで
減っていたために、ゼンマイを巻くとトルク(側圧)によって2番車が傾く事が原因
でした。
要するに、文字盤裏姿勢ではテンプが動作しますが、文字盤を上にすると1/20mm程度の
天芯アガキ(=遊び、ガタ)によって天輪が僅かに下がって2番車の淵と接触するために停止
していたのです。
それと、一瞬しか写りませんでしたが、米粒、髪の毛と天芯を並べた画像の撮影は
本当に大変でした・・・
すぐに転がる天芯を、200倍の視野で米粒と髪の毛のすぐ真横に、しかも”完全な平行”
にして並べないとディレクターさんがOK出してくれなかったんですよ。
当初、カメラマンの方がいくらトライしても不可能だったので、見るに見かねて私が行う
ことになったのですが、強い照明下で目がチカチカしながらの作業で、わずかなズレも
許されず、婦人用のヒゲゼンマイ修正どころの大変さでは無かったです。
冗談抜きで、ルクルトの世界最小ムーブOHしたときより苦労しましたよ!!
あと時計内部のCG画像で”天和”となってましたが、それじゃ役満アガリです。
正しくは”天輪=テンワ”ですよ、皆さん。
のべ5日間にわたるロケで、私がレポーターさんと絡むシーンもあったのですが、
見事にカットされましたw
会長も齢76歳でありながら、湯島~御徒町での材料屋めぐりを終えた後、秋葉原を
経由して神田まで歩き(しかもジムで週二回6kmランニングする私からみても結構な
ペースで)、老舗の蕎麦屋で海苔やとろろ、板わさといったつまみで一杯飲ったのち、
もりそばで〆る、といった粋な様子がカットされたのはちょっと残念でしたね~。
お蔭様で、日本シリーズ第7戦という強力な裏番組だったわりに、なかなかの高視聴率
だったらしく、中でも時計に関しての問い合わせが群を抜いていたそうです。
そんな忙しさのせいかわかりませんが、私のところへ電話かけて来たお客さんで、
「テレビ局の電話担当の方がそっけなくてねぇ・・・」と修理の本題に入らず
愚痴をこぼしていた方もいらっしゃいましたw
P.S
加藤会長の旋盤DVDは古典時計協会の会員でないと入手不可能なんです。
入会案内は”古典時計協会”で検索してみてください。
まぁ、DVDの入手が第一目的での入会はちょっと・・・というのが正直なところでは
あるんですけどね。